URBAN FARMERS CLUB

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未来を耕そう

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私的 街の農事暦 〜3月 桃始笑(ももはじめてさく)

美味しいうどん屋さんが、毎年、店前に出す福寿草の鉢植えを見たら、まだまだ寒い内に今年のプランターの作付を考えます。大家さん宅の玄関に、濃いピンクの木瓜の花を飾ってるのを見たら、今年も挿し木に挑戦。水仙を見かけたら、今年はどんな種を蒔こうかと妄想するのがいつもの習慣になっています。

そんな花々の中で、私にとって一番わかりやすく農のサインになるのは、梅の花。梅が咲いているのを見ると、さぁ土に触り始めようという気持ちが湧いてくるのは不思議です。季節に気づかされているんです。

これを書いている頃は、啓蟄の次候、七十二候で言うと桃始笑(ももはじめてさく)のあたり。昔は「咲く」という言葉を、「笑う」と表現したそう。確かに花がふわりと開く様をじっと見つめると、まるで微笑んでいるかのよう。

この頃から、あたたかさの高まりに連れて赤や黄色、春の花々が目につくようになります。気温が上がることに応えて咲く街の花が、私にベランダファームの再開の時期を教えてくれます。

いつもの恵比寿駅前、天気の良い日の信号待ち。マフラーはいつの間にか巻かなくなり、掌で日差しを遮ったなら、きっと咲いているはずと向かうところは、渋谷橋に向かう橋のたもと。小さな空き地に一本の小さな梅の木があって、私の行動範囲内で毎年1番に梅の花が咲きます。春先の太陽の傾きがちょうど良いようで、ビルの合間からスポットライトのように太陽が当たる様子。ここの梅が咲いたら、そろそろ今年の種まき始め。何からまこうかと、気持ちが高まってくるのです。去年はにんじん、うまく発芽しなかったなぁ。

今年UFC田んぼ部で伺った千葉県鴨川市でも、立派な梅の並木に出会いました。それに加えて、地表から立ち昇る春の精気。むんむんという言葉がピッタリ!その精気に動物たちもつられて、もちろん人間もつられて、気が満ちていると感じます。さぁ、やるぞ!という感じです。その日の田んぼ部の作業はくろ切り。「くろ」というのは、田んぼの畦のこと。田の水を貯めるための堰になるべく、大きいスコップで田んぼの周りを掘り起こしていきます。むんむんの春に力をもらって、ちょっとハイになって、土を掘り上げ汗をかいて、みんな笑います。今年初めて体験した天水棚田での梅の頃は、田んぼの土を起こすタイミング。やっぱり土なんだ。足もとから生暖かい春が湧き上がり、冬に休んでいた体は血が巡って気持ちよく、すっかり田んぼへの心と身体の準備が整う気がしました。

街でも里山でもたくさんの花が笑いかけてきて、いろんな兆しを運んでくれます。自分のいる場所の季節に乗って、サインを見逃さないように。菜の花が終わったら、次は桜。そして桃。急に忙しくなった私の畑。気がついたらベランダいっぱいに育苗ポットが広がって、今年も種まき過ぎの予感。我が家もすっかり春を迎えたようです。