今年の2月初頭だったと思う。知人を介して、ONIBUS COFFEE代表の坂尾篤史から「会いたい」と連絡をもらった。中目黒のお店へ行くと、真冬なのに汗をかきながら焙煎機と格闘している坂尾がいた。その姿を見て、友人の小笠原のコーヒー農家であり、焙煎から抽出まで全てを手がけるUSK COFFEEを思い出した。コーヒー豆を見る目つきが似ていた。初めて会ったばかりだったけど、その目つきを見て、自分で出来る事があれば相談に乗ろうと思った。
坂尾は、お店から毎日大量に出るコーヒーの滓を、これまではゴミとして廃棄しているのだが、それをどんな形であれ資源として再利用できないかと言った。ONIBUS COFFEEは、ただ味が美味しいだけのコーヒーを提供している店ではない。フェアトレードやオーガニック栽培など、コーヒーを育てる人やコーヒーを育てる土壌環境がサステナブルであるようにアクションを起こしている。
「このコーヒー滓だって、人によってはゴミに思えるかもしれないですけど、今のカップに入ってるコーヒーそのものなんです。だから、『ああ、美味しかった』で終わらせたくないんです。このコーヒー滓を生かしてあげること。街のコーヒー屋としてやれることがあるはずだとずっと思っていたんです」
「街のコーヒー屋」って言われたら「街の農家」として受けて立つしかない。坂尾には、コーヒー滓をUFCの畑に資材として使えないかと提案されたのだが、コーヒー滓をそのまま畑に入れるのは突出した養分だけを投入することになるし、そもそも未分解のままのコーヒー滓を畑には投入できない。その時、鴨ちゃんの顔が浮かんだ。鴨ちゃんとは、UFCの堆肥部長をお願いしている、三鷹の鴨志田農園の農園主だ。以前から、鴨ちゃんとは、家庭から出る生ゴミの堆肥化を相談していた。ゆくゆくの話だけど、UFCの拠点である渋谷エリアの生ゴミを堆肥化しようとプロジェクトベースで動き始めようとしていたタイミングだった。そうだ。コーヒー滓を主体とした堆肥を作ろう。
早速、鴨ちゃんに加わってもらって、コーヒー滓を堆肥化するプロジェクトを始めた。米ぬかや籾殻、落ち葉や壁土などを鴨居ちゃんがバランスを取りながら配合してくれて、熟成させていくこと3ヶ月ほど。鴨ちゃんから「いい感じに仕上がりましたよ!」と連絡をもらった。ただ、個人的には、UFCのメンバーとの会話の中で「プランターの土って何を買えばいいですか?」と質問されることが多く、ホームセンターや100圴なんかで買ってきた土で作物を育てきれないメンバーが多いことも知っていたので、堆肥の半分をさらに培養土にしてもらうよう頼んだ。
それがようやく完成した。実験的に、UFCのリトリートセンターでは、ニンニクやタマネギの堆肥として使っているが、どちらも堆肥を使用しない場合と比較すると、茎ががっしり太く育っている。
コーヒー滓から作った土だから、COFFEE SOILと名付けた。この堆肥(COMPOST)と培養土(CULTURE SOIL)は、中目黒、八雲のONIBUS COFFEE、渋谷のABOUT LIFE COFFEE BREWERSの店頭で販売が始まった。
街のコーヒー屋と街の農家だからできること。それは、自分たちの日々の暮らしの中から生まれる「資源」に気づき、循環を促すことなんだ。そう思えば、まだまだ出来ることはたくさんある。
最高のコーヒーを、最高の土に還そう。そして、カップを小さな畑に見立てれば、掌いっぱいの畑が見えてくる。
COFFEE SOIL 堆肥、培養土(各450円)は下記店舗にて発売中です。