URBAN FARMERS CLUB

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未来を耕そう

ARTICLE

未来を耕す人々 vol.0

00.はじめに

土に触れる。

自然と向き合う。

自らの手でつくる。

育てる。慈しむ。

食べる。

そしてまた、土に触れ、育てる。

農業とは、端的に見れば、そういうことの繰り返しだ。これは大規模な農家でも、趣味でやる家庭菜園でも同じこと。芽が出たときは、嬉しい。収穫のときは、楽しい。その野菜を使った料理は何倍にもおいしく感じられるし、食べ物への感謝の気持ちも湧いてくる。しかし、やることは繰り返しでも、毎年、何が起こるかわからないのが農業でもある。

ものすごい勢いで雑草が生え、虫が発生し、気候や天候によって実りは左右する。種まきのタイミングを間違えれば芽が出ず、土質によって育つ作物と育たない作物があったりもする。技術だけではどうにもならない場合もあるのだから、つくづく農業は挑戦ばかりだ。柔軟な考えを持ち、臨機応変に行動しなければならない職業なのだなと思う。

でも、実際にやるかやらないかはさておき、誰もが一度は畑をやってみたい、作物を育ててみたいと思ったことがあるのではないだろうか。そして、実際にやってみて大変だとわかっても、面白くてやめられないという人もいる。

 

人はなぜ、農に魅せられるのだろう。

その疑問が、より深く私の中で問いとなったのは、アーバンファーマーズクラブ(以下、UFC)のキックオフ・パーティを目撃したときだった。

私は、UFCとも縁の深い、神奈川県の中山間地「藤野」というところに暮らしている。東京・杉並区から移住したのは、もう13年も前のことだ。

代表の小倉崇と出会ったのは、2012年ごろだっただろうか。同じく藤野で暮らす共通の友人を通して、最初は確か、同業者ということで紹介されたのだった。フリーの編集者兼ライター。渋谷に事務所を構えているというほど、バリバリ仕事をしている大先輩であった。しかし、農という要素は、そのときの彼にはどこにもなかったはずである。

そんな彼が、藤野周辺とそこで暮らす人々とつながることによって、どのように農に傾倒していったのか。また、どのようにUFC発足につながっていったのかは、また改めて書き記したいと思うが、時を経て「アーバンファーミングを広げていくためのNPO法人を立ち上げる」と聞いたときには、私は極めて一般的な感覚で「それはいいことだ」と思ったのである。

都市で暮らす人が農業に関心をもつのはいいことだ。
やりたいと思ったときにその受け皿があるのはいいことだ。
都市生活者の自然や環境への意識が変わるかもしれない。
日々の癒しや休日の過ごし方として、すてきじゃないか!
農業の活性化にもひと役買うかもしれない!

 

農業×都市と聞いてパッと浮かぶイメージで、私は彼らの活動に賛同した。そのとき感じたことは、もちろん間違いではないと思う。けれども、実際にUFCが発足して目撃したのは、そんな表面的な一般論では説明しきれない、都市生活者からの共感の嵐、そして傍目にもわかる参加者の高揚感と熱意だった。正直「ここまで盛り上がるのか」と驚いてしまった。

まったく違うつながりの友人知人が、何人も何人もSNSUFCのスタートを興奮気味に紹介していた。パーティ当日、広い会場は満員で「あの人もこの人もいる!」と驚くほど、多種多様な人が集まっていた。著名なアーティストもいた。

それは、確実にムーヴメントが起こる瞬間の高揚感を伴っていた。何かが始まる、という期待。それに能動的に関わろうとする人々の熱意。一気に動き出す、という確信に満ちた予感。

私はある意味で、都市での暮らしに見切りをつけた人間である。移住が当たり前になりつつある現在のように、ポジティブな理由で藤野に移住したわけではなく、都会の生活に疲れ「隠居したい」「田舎でのんびり暮らしたい」と、ドロップアウトした人間だった(当時、まだ20代のくせに!)。

だから、UFCの理念に共感しつつも、都市ではなくローカルで暮らしている人間として「応援者」的な立ち位置を気取っていた。しかし、キックオフ・パーティの様子を見ていると、そんな私の胸までもが熱くなっていった。農とのつながりは、私が軽く考えていた以上に人々に求められているのではないだろうか。そしてそれは、都市もローカルも関係ないのではないか。そう考えるようになった。

一方で、疑問も出てくる。これまでだって都市には市民農園はあって、興味があれば都会で農業をすることはできたし、自宅の庭やベランダのプランターで、小さく野菜を栽培していた人もいたはずだ。それなのに、UFCがここまで多くの人の熱量を集め、一気に盛り上がりを見せたのはなぜなのだろう。

小倉は言う。

「前提として農への興味はもちろんあるんだけど、突き詰めるとUFCに関わる理由も目的も、人によって全然違うんだよね。会員に聞いても違うし、コアメンバーだってみんな違う。それがUFCの面白いところなんだよね」

いろいろな人の思いや目的が、農という1点で結ばれ、UFCを形成している。人の数だけUFCの見方があり、魅力がある。それはつまり農的関心はベースにあるとしても、それだけでは、ここまでムーヴメント化はしなかったのではないか、ということを示唆している。

じゃあいったい、このムーヴメントの正体はなんなのか。ひとりひとりの思いや目的が違う以上、ひとりひとりに聞いて、立体的に見ていく必要があると思った。

ここでは、メディアに多く登場している小倉の証言にとどまらず、UFCに関わるさまざまな人を紹介し、その思いや考えを掘り下げていこうと思う。そして、このムーヴメントを冷静に捉え直し、UFCの現在地と未来をも探っていきたい。


すでに畑は耕され、種は蒔かれている。
その種は、どのように芽吹き、花を咲かせ、実をつけるのか。
まずは、そのときの畑の景色を想像しながら、書き進めることにしよう。